Flavescence doréeという病害と有機農法ワイン生産者


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Flavescence doréeという病害と有機農法ワイン生産者
こん**は、自称「自然派ワイン」のウ○コ臭いのが大嫌いな@hirok-kです。

2013年11月にボーヌのワイン生産者Domaine Emmanuel Giboulotが、殺虫剤を散布しなかったとして訴追されたのは記憶に新しいところですが、その問題となったFlavescence doréeという病害と有機農法(主にビオロジックとビオディナミ)について、日本語の資料やまとめがほとんどありませんので、自分なりにまとめてみました。

Flavescence doréeとは何か

flavescence=黄変・黄化、dorée=金色を意味していますので、日本語に無理矢理訳すと「黄色黄金色変性症」とでも言えばいいのでしょうか。実際、Flavescence doréeという名前は、この病害に侵されたブドウ樹の葉が呈する病変の色に由来しています。

以下では原語のFlavescence doréeのままで記述しますので、わかりにくい場合は適宜置換えをお願いします。

Flavescence doréeの原因

Flavescence doréeは、バクテリアCandidatus Phytoplasma vitisがブドウ樹に感染して生じる病害で、このバクテリアの主な媒介生物はオオヨコバイ科に属するヨコバイの一種Scaphoideus titanusです。

このヨコバイの一種Scaphoideus titanusは、カナダ東岸から米国北東部の大西洋岸が原産地とされており、フィロキセラ禍の際に移入された米国産台木によって持ち込まれたか、第2次大戦中に何らかの形でフランスに持ち込まれたと考えられています。
Scaphoideus titanus

Flavescence doréeのフランス国内における感染の歴史

1949年、フランス南西部のアルマニャック地方でフランス国内で初めて発見され、その後徐々に感染地域を広げ、1980年にはコニャック地方やラングドック地方、そしてローヌ地方南部に拡大。1992年には、ロワール渓谷とボルドーでも感染が確認されるまでに至ります。

そして2011年、ブルゴーニュで感染が確認されると、翌2012年にマコンの感染した畑12haでブドウが引き抜かれる事態に発展し、感染地域がブルゴーニュを北上しています。

Flavescence doréeの主な症状と影響

Flavescence doreeFlavescence doréeに感染したブドウ樹は、その葉が黒ブドウであれば赤色に、白ブドウであれば黄色〜黄金色に変色。枝や幹は木質化が十分に進まず成長が妨げられ、開花率が下がり、果実も十分に成熟しなくなるとされています。

この病変は不可逆的で、ブドウ樹にとっては回復不可能なダメージとなり、その結果、単位面積当たりの収量の極端な減少やブドウ樹の枯死を招くとされていますが、実際に感染後の有効な治療法がないため、決定的な対策が現在のところ存在しないといわれています。

このような影響を与えるFlavescence doréeに対して、19世紀末にあったフィロキセラ禍の悪しき記憶とも相まって、この病害をなんとしてでも食い止めたいという強い決意が生まれたと考えられます。

Flavescence doréeへの対策と有機農法

この病害はまだその研究途上にあり、その対処も病原体バクテリアを媒介するヨコバイの一種Scaphoideus titanusを駆除することと感染したブドウ樹を引き抜くことが、現在のところ取れる対策とされています。

2013年7月にフランス農務省の組織であるDRAAF-SRALが、媒介生物であるそのヨコバイの一種を駆除する殺虫剤の散布を強く要請するに至って、殺虫剤や除草剤などの合成薬剤の散布を行わない自然派農法を採用する生産者は、殺虫剤の散布という命令との葛藤に置かれることとなりました。

有機農法生産者の対応

以前の記事「自然派ワイン」は「良いワイン」なのかで触れた有機農法認証の各団体の特徴を見ていただくとわかりやすいのですが、いずれも自然環境の保全を求めていることから、この殺虫剤の散布はその理念と相容れないものがあります。

そこで冒頭に挙げたボーヌの生産者Domaine Emmanuel Giboulotでは、「まだ完全に病原を対処するか証明されていない化学農薬を撒くことに対しては強い抵抗を感じる」とし、薬剤の散布を拒否するに至りました。しかし、これにより訴追を受ける事態となり、大きな論争を巻き起こすこととなりました。

これとは逆にあるドメーヌでは、駆除のために除虫菊に含まれる成分で淡黄色の油状物質であるピレトリンからなる殺虫剤の散布を行うこととしています。この薬剤は「ビオロジックで認められた唯一の殺虫剤(ドメーヌのステートメントから)」で、媒介生物であるそのヨコバイの一種を駆除することが可能だそうですが、一方で畑に生息する益虫にもその作用が及んでしまったそうです。

有機農法を守るのか、それとも産地を守るのか

長い期間に渡ってビオロジックやビオディナミを実践してきた生産者にとっては、その長年の労苦を覆しかねない殺虫剤の散布に対して大きな抵抗を感じるのは間違いないでしょう。

また散布を行うことで有機農法の認証が認められなくなってしまうという事態も考えられます。

では、どうすればいいのか。

有機農法を採用している生産者は、およそ次のような選択に迫られると考えられます。

  • 自然環境の保全のために有機農法を守り様々な方策を試行錯誤しつつ、有機農法のアプローチに沿った効果的な対処方法が発見されるのを待つ
  • 一時的にしろ現時点で効果のある方法を取り入れ、有機農法のアプローチに沿った効果的な対処方法が発見されるのを待つ

言葉を変えれば、有機農法を守るのか、それとも産地を守るのか、の選択とも言って差し支えないでしょう。

現在要請されている方法が殺虫剤の散布であれば、なおさらそれに代わる方法で有機農法を守ろうとする動きがでるのは十分に理解できますし、またその殺虫剤の散布を行うことで畑を守ることができればそれを採用する生産者がいることもまた理解できます。

どちらが正解でどちらが不正解である、という二元論が取れない以上、それぞれの立場で考え議論を行うのは当然の流れと思われます。

まとめ

「自然環境の保全は行えるものの、近隣の畑ひいては産地全体に影響を及ぼす可能性がある」方法をとるか、「自然環境に影響を及ぼす可能性があるものの、影響を食い止めることができる」方法をとるか。

どちらにも一長一短があるだけに、様々ある考え方によってどちらをとるかはその人次第になるでしょう。そして、その対策を巡っての議論が論争を呼ぶのは致し方ないかと思われます。そうであるがゆえに、もしその2つの間をとった折衷案がとれるのであればそれがベストではないかと考えます。

つまり
効果的な対処法が発見されるまで、出来る限り影響が少なくなるような駆除を行う
です。

これは、ビオロジックやビオディナミではなくリュット・レゾネ的な考え方ですが、「薬剤を必要最小限度の使用に留め、考えうる被害を最小限度に抑える」のが、実は今実行可能な対策なのかもしれません。

なんにせよ、「自然派ワイン」は「良いワイン」なのかでも述べた、手段と目的が入れ違ってしまうことだけは避けてもらいたいですね。

とにかく、美味しいワインが飲みたい、その一心のですから。