ドイツワインの等級・格付け


ドイツワインの等級・格付け
こん**は、ドイツワインがなぜ流行らないかが疑問でならない@web_and_wineことhirok-kです。

エチケット(ラベル)がわかりづらい、薄甘い白だけと散々な言われようのドイツワインですが、フランスやイタリアのワインに勝るとも劣らない個性をもつ素晴らしいワインです。そんなドイツワインの等級・格付けについて、近年の動向も含めてまとめてみました。

※記載されている数値や説明、条件等は、2015年9月現在で当方が調べられる限りにおいて得られた情報を元に整理を行ったもので、完全性・正確性を保証するものではありません。

等級・格付けの考え方と産地

ドイツワインの公的な等級は、主にそのワインの産地と糖度によって分けられています。

ドイツ国内の定められた地域で栽培されたブドウのみが対象となっており、複数の指定地域のブドウによって産まれたワインを混ぜたワインは基本的にドイツ国内のみで消費され、海外へ出回ることはほぼありません。

従って、以下では全てドイツ国内の指定地域産のワインのみを扱っています。

等級の基本

前述のとおり、ドイツワインは産地と糖度によって等級付けが行われ、世界一厳格とも言われるドイツワイン法によってその規定が定められています。

糖度はエクスレ度という単位が用いられています。このエクスレ度は、ドイツの物理学者フェルディナント・エクスレによって1830年に考案されたもので、1000mlあたりの果汁の重さによって表されます。(出来上がったワインの糖分を示すものではないことに注意してください)

例えば、1000mlの果汁の重さが1100gだった場合は、100°Oeと表記されます。

各等級には基準となる最低エクスレ度が定められており、その各基準値を超えた場合に認められます。等級の認証は実際に検査が行われた結果として認められ、等級が認められたワインには全て公認検査番号にあたるAP.Nr.(アーペーヌンマー)が記載されています。

産地

ドイツワインでは指定栽培地域(ベライヒといいます)として13地域のみが認められています。

ベライヒ 読み方・備考
Ahr アール
主に赤の産地。ザーレ・ウンストルート、ザクセンに次いで北に位置(旧西独地域では最北)。
Baden バーデン
多種多様なワインを産する温暖な地域。EUの気候ゾーン分類ではドイツで唯一ブルゴーニュやアルザスと同じBゾーン。
Franken フランケン
しっかりとした辛口の男性的なワインを産する。ボックスボイテルという一風変わったボトルが使用されています。
こちらの記事もぜひご覧ください。
Hessische Bergstrasse ヘシッシェ・ベルクシュトラッセ
ザクセンに次いで2番目に小さなベライヒ(旧西独では最小)。
Mittelrhein ミッテルライン
ライン川の名所ローレライ付近の地域。白の産地ですが、ゼクト(スパークリングワイン)を多く産しています。
Mosel モーゼル
2007年7月まではMosel-Saar-Ruwer(モーゼル・ザール・ルーヴァー)と呼ばれていました。しっかりとした酸とミネラルをもつ白を産しています。
Nahe ナーエ
火山岩土壌に由来する様々な個性を持つワインを産しています。
Pfalz ファルツ
フランス・アルザス地方と接する地域。
Rheingau ラインガウ
ライン川の反射熱と反射光により比較的温暖な地域で、優雅で表情豊かなな白を産しています。
Rheinhessen ラインヘッセン
ラインガウの南に位置する広大な地域。比較的求めやすい価格のワインを多く産しています。
Saale-Unstrut ザーレ・ウンストルート
旧東独地域の1つ。ドイツ国内で最北に位置するベライヒで、北緯51.5度にあたります。
Sachsen ザクセン
旧東独地域の1つ。ザーレ・ウンストルートに次いで最北に位置する最小のベライヒ。
Württemberg ヴュルテンベルク
伝統的に赤ワインを多く産する産地。

ドイツワイン地図

等級の種類

糖度が等級の基準となっており、果汁糖度の高さにより等級分けがなされています。

そのため辛口の等級分けも同じく糖度によって行われていますが、こちらは出来上がったワインの残糖度が基準となっています。

果汁糖度による等級

各等級は、産地やブドウ品種によって個別に定められた最低エクスレ度があるため、下記の最低エクスレ度には数値に幅があります。

等級 最低エクスレ度 最低アルコール度数 読み方・説明
QbA 51〜72 7% クーベーアー
補糖が可能。
Prädikatswein プラディカーツヴァイン
下記の6等級のいずれかを名乗ることが可能。
2007年7月までQmP(Qualitätswein mit Prädikat)肩書き付き上質ワインと呼称。
Kabinett 67〜82 7% カビネット
通常の収穫期に収穫された完熟ブドウから。
Spätlese 76〜90 7% シュペトレーゼ
カビネットの収穫よりも7日間以上遅く収穫される遅摘みのブドウから。
Auslese 83〜100 7% アウスレーゼ
シュペトレーゼよりもさらに糖度の高いブドウを房選りで収穫されたブドウから。
Beerenauslese 110〜128 5.5% ベーレンアウスレーゼ
より過熟したブドウを粒選りで収穫されたブドウから。
Eiswein 110〜128 5.5% アイスヴァイン
ブドウを樹上に残したまま気温が-7度以下(通常は更に低い温度)になり自然凍結したブドウを使用したもの。
Trockenbeeren
auslese
150〜154 5.5% トロッケンベーレンアウスレーゼ
主に貴腐の影響により干しブドウ化したブドウを使用したもの。

果汁糖度による等級の模式図

※造り手の考え方によりアウスレーゼをシュペトレーゼやカビネット、またはQbAに意図的に格下げすることもあるため、表記等級よりも高い糖度をもつことも頻繁にあります。
※ベーレンアウスレーゼクラス以上のワインは天候などにより生産できないこともあるため、毎年常にリリースされるとは限りません。

辛口

半辛口〜辛口を示すものとして、次の5つの表記があります。

ClassicとSelectionを除き、果汁糖度による等級に併記することが可能です。
例)Spätlese Trocken, Kabinett Trockenなど

表記 読み方・説明
Feinhelb ファインヘルプ
糖分を残し、甘さも少々感じられる半辛口。残糖や総酸度の規定はなく、造り手の意図によってつけられています。
Halbtrocken ハルプトロッケン
最高残糖分18g/l以下の辛口ワイン。実際には、酸度によって残糖分が規定されています。
Trocken トロッケン
最高残糖分9g/l以下の極辛口ワイン。実際には、酸度によって残糖分が規定されています。
以下は2000年ヴィンテージから導入された新しい表記で、食事と合わせやすいスタイルのワインとされています。果汁糖度による等級との併記は認められておらず、それぞれに定められたロゴがエチケット(ラベル)に表記されています。また、従来の果汁糖度による等級ではQbAに位置するワインとなっています。
Classic クラシック
QbAの最低エクスレ度よりも高いエクスレ度(+8°Oe)が求められ、最低アルコール度数12%(モーゼルでは例外的に11.5%)以上で、残糖は総酸量の2倍までで最高でも15g/lまで。また各産地に伝統的な品種を使用することと規定されています。
エチケットにはブドウ品種名とベライヒが記載可能です。
Selection セレクション
クラシックの上級にあたる辛口ワイン。アウスレーゼの最低エクスレ度が求められ、最低アルコール度数12.2%以上で、残糖は9g/lまで(リースリングによるワインのみ例外で、残糖は総酸量の1.5倍までで最高でも12g/lまで)。収穫量は60hl/haまでで、収穫は手摘みに限定されています。また各産地に伝統的な品種を使用することと規定されています。
エチケットにはブドウ品種名と単一畑の表示が必須となっています。

※Classicは比較的市場で見かけますが、Selectionは規定が厳しいこともあり市場ではあまり見かけないワインとなっています。

廃止された等級・肩書き

1971年に行われたドイツワイン法の大幅な改正、1982年のさらなる改正により廃止された等級が存在します。

それ以前のヴィンテージのドイツワインには時折見られる等級・肩書きですので、ぜひ知っておいていただきたいものです。

表記 読み方・説明
Cabinet
Kabinettwein
キャビネット/カビネットヴァイン
果汁糖度による等級にあるKabinettとは意味合いが異なり、キャビネットに隠しておきたいほどのできの良いワインを指しており、「限定品」に近い意味合いを持っています。1971年の改正によりこの表記がなくなったため、その年以前のワインでのみ見られるものです。
Naturrein
Naturwein
ナチュールライン/ナチュールヴァイン
1971年の改正によりカビネットクラス以上には補糖が認められなくなりましたが、それ以前では補糖が行われていたため、補糖が行われていないワインにはこの表記が付けられていました。
Edelbeerenauslese エーデルベーレンアウスレーゼ
1971年の改正により姿を消した等級で、トロッケンベーレンアウスレーゼと同じ等級に位置するものです。以前はトロッケンベーレンアウスレーゼが貴腐ブドウによるワインであるのに対し、こちらは日照などの影響によって干しブドウ化したブドウによるワインを指していました。
Strohwein シュトローヴァイン
同じく1971年の改正により姿を消した等級で、フランスのヴァン・ド・パイユと同じく、ワラの上で乾燥し糖度を上昇させたブドウによるワインでした。
2009年8月、EUによってドイツ国内での生産が認められるようになりましたが、この名称はオーストリアとイタリアが使用していたためドイツでは名乗ることができず、代わりにStriehweenという名称でQbA以下の扱いながら復活を果たしています。現在、モーゼルのUlrich Steinが僅かな数ながらリリースしています。
Trockenbeerenauslese-Eiswein
Beerenauslese-Eiswein
Auslese-Eisweinなど
トロッケンベーレンアウスレーゼ・アイスヴァイン/ベーレンアウスレーゼ・アイスヴァイン/アウスレーゼ・アイスヴァインなど
1982年の改正まではアイスヴァインは自然凍結したブドウによるワインを指すのみで、現在のようにエクスレ度が規定されていなかったため、凍結したブドウの糖度を示すものとしてアウスレーゼやベーレンアウスレーゼなどといった等級を使用していました。

廃止された等級・肩書きの例復活したドイツのシュトローヴァインの例

畑別での格付け

ドイツでもブルゴーニュにならった畑別での格付けが行われ始めています。

この格付けは公的なものではなくVDP(ドイツ高品質ワイン醸造家協会)が独自に審査・認定しているもので、そのためまだまだ未格付けの畑があり、現在進行形で進められているものです。

概要

ブルゴーニュの格付けでは、ピラミッド構造のように基礎にあたるレジオナル(地域名)から、ヴィラージュ(村名)、プルミエ・クリュ(1級畑)、グラン・クリュ(特級畑)と徐々に上級となるように格付けされていますが、VDPによる格付けもこれとほぼ同じ4つのランクを設けた格付けに分類されています。

これまでは経験的に語られてきた畑の格が、この格付けにより、より理解しやすいピラミッド構造で把握することが可能となりました。とかくわかりづらいと言われるドイツの畑が少しでもわかりやすくなったとも言えるでしょう。

格付けのランク

2012年からそれまでの格付け制度に変わり、新たな格付け制度が制定されています。

以下は、その最新の格付け制度についてを記載しています。

表記 読み方 収穫量 果汁糖度 収穫方法
Gutswein グーツヴァイン
地域名ワイン
畑にはその地域に伝統的な品種を少なくとも80%以上植えられていること。
エチケット(ラベル)にはベライヒとブドウ品種名が表記可能。甘口ワインについては果汁糖度による等級も併記可。
キャップシールにVDPロゴとGutsweinを記載。
Ortswein オルツヴァイン
村名ワイン
〜75hl/ha
畑にはその地域に伝統的な品種を少なくとも80%以上植えられていること。
エチケット(ラベル)には村名とブドウ品種名が表記可能。甘口ワインについては果汁糖度による等級も併記可。
キャップシール(またはタスキ)にVDPロゴとOrtsweinの記載が必須。
Erste Lage エアステ・ラーゲ
1級畑ワイン
〜60hl/ha Spätlese以上 手摘み
その地域に伝統的な品種を使用した高品質なワインであること。
エチケット(ラベル)には畑名とブドウ品種名が表記可能。甘口ワインについては果汁糖度による等級も併記可。
キャップシール(またはタスキ)にVDPロゴとErste Lageの記載が必須。
Grosse Lage グローセ・ラーゲ
特級畑ワイン
〜50hl/ha Spätlese以上 手摘み
品質管理を徹底するため栽培期間を通じてモニタリングが行われ、仕上がったワインに対しても官能試験を課しています。
その地域に伝統的な品種を使用した高品質なワインであること。
エチケット(ラベル)には畑名とブドウ品種名が表記可能。甘口ワインについては果汁糖度による等級も併記可。
キャップシール(またはタスキ)にVDPロゴとGrosse Lageの記載が必須。
辛口ワインでは、GROSSES GEWÄCHS(グローセス・ゲヴェックス:特級畑を意味)を示すロゴがボトルに刻印。

VDPによる畑別での格付けランクの模式図

VDPによる格付け別の辛口ワインボトルの例VDPによる格付け別の残糖を含むワインボトルの例

主な特級畑

格付け認定作業が現在も続いており、VDP会員の畑が中心のため、伝統的に評価の高い銘醸畑でもこの中に入っていないものが数多くあります。

ベライヒ 畑名
Mosel ERDEN TREPPCHEN
PRÄLAT
ÜRZIG WÜRZGARTEN
WEHLEN SONNENUHR
GRAACH JOSEPHSHÖFER
HIMMELREICH
DOMPROBST
BERNKASTEL LAY
DOCTOR
BRAUNEBERG JUFFER
JUFFER-SONNENUHR
PIESPORT GOLDTRÖPFCHEN
TRITTENHEIM APOTHEKE
KASEL NIES’CHEN
OCKFEN BOCKSTEIN
Reingau HOCHHEIM HÖLLE
STEIN
KÖNIGIN VIKTORIABERG
KIRCHENSTÜCK
DOMDECHANEY
REICHESTAL
RAUENTHAL ROTHENBERG
BAIKEN
KIEDRICH GRÄFENBERG
ERBACH HOHENRAIN
STEINMORGEN
SCHLOSSBERG
MARCOBRUNN
SIEGELSBERG
MICHELMARK
HATTENHEIM MANNBERG
WISSELBRUNNEN
NUSSBRUNNEN
HASSEL
PFAFFENBERG
ENGELMANNSBERG
SCHÜTZENHAUS
STEINBERGER
WINKEL SCHLOSS VOLLRADS
HASENSPRUNG
JESUITENGARTEN
JOHANNISBERG KLAUS
SCHLOSS JOHANNISBERGER
HÖLLE
RÜDESHEIM MAGDALENENKREUZ
KIRCHENPFAD
KLOSTERLAY
BISCHOFSBERG
BERG ROTTLAND
BERG ROSENECK
BERG SCHLOSSBERG
Franken BÜRGSTADT CENTGRAFENBERG
„HUNSRÜCK“ CENTGRAFENBERG
WÜRZBURG STEIN HAGEMANN
STEIN-HARFE
INNERE LEISTE
RANDERSACKER TEUFELSKELLER
PFÜLBEN
SONNENSTUHL
ESCHERNDORF LUMP
IPHOFEN JULIUS ECHTER BERG “IM FROHNTAL”
KRONSBERG
CASTELL SCHLOSSBERG

まとめ

これまでも村名+畑名がエチケット(ラベル)に記載されてきたドイツワインですが、そのランクについては伝統的に銘醸とされた畑であるかどうかだけがとかく見られがちでした。

また品質等級についても、寒冷な北の地で栽培されるブドウの糖度が重要視されてきたという背景もあるものの、果汁糖度によるものだけで、ここでも畑についてはほとんど考慮されることはありませんでした。

ですが、ここに至って従来の品質等級とともに畑の格付けが行われ始めたというのは、ドイツにしか無いテロワールをより消費者に訴えかけられることにもつながることから、まだまだ課題があるといわざるえを得ないものの、今後の展開に大いに期待したいところです。